左の本を参考にしながらマイオドンティクス(咬合治療)から見た床矯正治療について述べたいと思います。
正常の概念と正常の崩壊
出生から死に至る生物的現象を通して
③さて、図Ⅰ-29の身体系のカーブにあるように、成長には二つの大きな時期がある。すなわち0~4歳の時期と12~18歳の時期である。口腔においては最初は乳歯列が完成していく時期であり、2回目は永久歯列が完成していく時期である。成長の緩やかな時期は、混合歯列気である。
哺乳行為で本来の位置づけをされ、筋力も十分に高められた下顎は、1~2歳の間に乳歯を放出し、3歳で乳歯列を完成する。初期の乳歯顎は咬頭と窩の関係が成立し、発育のための環境因子となる。この時期までの身体系の発育量はスキャモンの図によると40%にも達する(図Ⅰ-32)。そして、哺乳で十分に筋力を高められ、100日目のお食い初めのころから乳前歯萌出期にかけて活発に固いものを噛もうとし、またよく歯固めが行われた顎は、乳歯列が完成する前から固い食物を咀嚼(引き裂き、砕き、すりつぶし)し、第一次消化が十分なされ、嚥下するようになる。この臼磨運動は左右の筋が均等に受け持ち、水平面に沿った乳歯列が早い時期に完成する(図Ⅰ-33)。
3~6歳の身体系の発育量はわずか数%に過ぎない。
口腔は左右均等に咬耗した咬合平面を持つ乳歯列により自由に運動をし、さらに筋力を高めていく。この時期はハードウェアの発育が行われる時期と違い、生体は生理的に安定し、むしろソフトウェアの部分が発達する時期であり、ストレスのない咬合と相まって知能や情緒が発達する。さらに下顎は前方移動により切端咬合を呈し、口蓋咽頭部は、パスウェイとして十分に生理的な容積を有する。機能し咬耗することにより歯質も丈夫となり、齲蝕のない健全な口腔が存在し、さらに自由な咬交は6歳臼歯をマイナーに適正位置に導いてく。これはその後萌出してくるすべての永久歯について当てはまる。(図Ⅰ-34)
3~6歳の身体系のカーブは引き続き緩やかである。この時期は混合歯列の時期であり、口腔内は一見ダイナミックに変化していくように見えるが、咬耗された乳歯列を持つ顎においては、萌出してくる幼弱永久歯を暫時交換させながら下顎の位置づけを保ち、その交換はスムーズである。そして幼弱永久歯列が完成する。この幼弱永久歯列は、咬頭と窩で噛み合うが、萌出順位にそって左右均等にある程度の咬耗があり、成長の第二段階でのガイドとなる。混合歯列の初期から中期にかけても、ハードな部分より、むしろソフトな部分が発達する時期であるが、幼弱永久歯列の咬頭と窩の関係により、後半になるに従い、徐々にダイナミックに変化していく。
12~18歳ごろの身体の発育量は全体の40%以上を示し、口腔内も成長のための環境因子としての咬頭と窩、スピーのカーブを有していく(図Ⅰ-35)。
この時期の情緒はむしろ不安定である。口腔内は永久歯列で弱若咬耗をきたしており、出生より高められた筋力と、自由な運動が可能な顎は、引き続き咬耗を起こし、咬頭と窩の関係、スピーのカーブは成長とともに消失し、約20歳で成人し、発育が完了した時点で、成長のための必要があった環境因子は消失し、咬合は水平面にそって左右均等に咬耗した咬合平面とともに中立化する。同時に左右筋群は、バランスを保ち、前方移動した下顎位は顎関節を平坦にし頭部より保護する形態をつくり、口蓋咽頭部を十分に広げ、口腔容量を適正に保つこととなる。
したがってこのように機能することによってつくられた0°平面として中立化した咬合は、ヒトの一生の中で重要な咀嚼器官としてその機能をまっとうし続ける。これらの過程は、自然の調節機構としての働きであり、これにより身体各部は整合性を持って恒常性を維持していくことが可能となる。すなわち顎口腔系の発育発達における正常像である。図Ⅰ-36はヒトの口腔の生物的現象を模式図としたものである。
しかるに現代人口腔では全く反対の様相を呈していく(図Ⅰ-37)。これは多分に最初の出発点としての保育、離乳時期の子育てに原因することが多い。
たとえば、逆さまにしてミルクが出てしまうような人口乳首に母親の乳房、乳首の代わりをすべて任せてしまうと、乳児は吸啜運動において、将来のためにも必要な陰圧機構をそれ程必要とせず、また舌や顎による圧縮機構も必要としないか、非常に弱いものとなり(図Ⅰ-38)、下顎位を含めて筋力、情緒発達といった乳児が成長していくのにもっとも大切なものが失われる危険性がある。ミューラーは、図Ⅰ-39に示すように、この危険性の実際として舌下垂症候群として様々な病態を掲げている。
さらに、子供たちがのびのびと遊べる環境空間がなくなってきたことも起因する。哺乳の時期に十分に乳房の恩恵を与えられず、離乳食期の柔らかな食事ばかりが乳歯列完成後も続くと、咬耗させるだけの筋力もなく、下顎は後退位のままでさらに舌の運動不足による咀嚼・嚥下障害を持つ子供たちが出現する。咬耗現象の見られない顎は、小窩裂溝、隣接面齲蝕を多発させることとなり、拡大する歯列弓は咬合口径の低下を招き、その力パターンは骨の添加と吸収の枠をこえ、歯牙は脱落し、口腔は崩壊していく。下顎は前方へ移動することができず、咽頭、頸部を中心に様々な病態をつくり出していく。
齲蝕のコントロールされた顎でもそこに隠された病態までを取り除くことはできず、過蓋咬合、低位咬合といった関係は子供にさえ成人に似た病態を作り出す。子供たちにとって身体を十分に動かすことのできない環境は外的因子として、発育ばかりか発達にも大きな問題を投げかけてくる。咬合平面は後天的な因子により左右非対称となり、口腔は三次元的に崩壊することになる(図Ⅰ-40~41)。すなわち、下顎頭の後上方への移動である。また顎の変位である。この崩壊は齲蝕の有無にかかわらず起こってくる。特に近年口腔衛生の普及はめざましいが、そのために我々自身がその徴候(signe)を見落としてしまうところに問題がある。そしてその徴候は口腔領域よりもむしろ口腔領域外の症状を持つものが多く、普通は歯科以外の他科へ行くことになり、顎関節、咀嚼筋等に痛みとしての症状を訴えてくる場合は、既に全身的に多くの問題を含んでいる場合が多い。

図Ⅰ-39
私が床矯正治療で可能と思っている事柄
正常な咬合高径(噛み合わせの高さ)に回復することができる。
舌を正常な位置に置けるようにすることができる。
下顎を本来の位置である前方位に誘導することができる。
このことは咽頭、喉頭部容積の増加になり、鼻呼吸獲得にもつながる。
そのヒトの年齢に合った噛み合わせにすることができる。
以上のことで顎口腔系において整合性のある咬合及び生理的構造が獲得でき、そのことは全身諸器官の恒常性に通じる。
つづく、、、、、、、
熊坂歯科医院(埼玉県さいたま市浦和区)では歯を抜かない取り外し式歯科床矯正を行っています。興味のある方は熊坂歯科医院ホームページを御覧ください。